慢性腎臓病(CKD)で筋肉が重要な理由|筋トレが腎臓と健康寿命を守る理由を腎臓専門医が解説
この記事でわかること
- なぜCKDでは筋肉が減りやすいのか
- 筋肉が減ると起こるリスク
- 筋トレが腎臓を守る理由
- 今日から始められる運動習慣
健診でeGFRや尿蛋白の異常を指摘されると、不安になりますよね。
もちろん、まずは精密検査を受けて原因を調べることが大切です。
しかし、慢性腎臓病(CKD)のリスクは透析だけではありません。
- 脳梗塞
- 心筋梗塞
- 心不全
- 骨折
- 要介護
こうした病気のリスクも高くなることが知られています。
そこで重要になるのが筋肉です。
筋肉量は、慢性腎臓病患者さんの身体機能や生命予後、腎機能低下速度とも関連することが報告されています。
CKDでは腎臓だけでなく、「筋肉」を守ることが将来の健康を守ることにつながります。
では、なぜ腎臓病では筋肉が減ってしまうのでしょうか。
健診で腎臓が悪いと言われたら、まず知っておきたいこと
まずは現在どのような異常があるのかを把握しましょう。 健診では、主に次の3項目が慢性腎臓病(CKD)の発見につながります。
| 項目 | 意味 | ポイント |
|---|---|---|
| eGFR | 腎臓のろ過能力 | 筋肉量の影響を受ける |
| 尿蛋白(尿アルブミン) | 腎臓フィルターの障害 | 初期は症状が出ない |
| 尿潜血 | 腎臓・尿路の異常 | 一過性のこともある |
これらの異常がある場合は、透析だけでなく、
- 心不全
- 脳卒中
- 心筋梗塞
- 骨折
- 死亡リスク上昇
などのリスクも高くなることが知られています。
では、なぜ腎臓病になると筋肉が減りやすくなるのでしょうか。
慢性腎臓病(CKD)は筋肉が減りやすい病気
慢性腎臓病では、腎臓だけが悪くなるわけではありません。 体の中では筋肉を壊しやすく、新しく作りにくい環境が少しずつ進んでいきます。 自覚症状がほとんどない早い段階から始まることも特徴です。
| 原因 | 筋肉への影響 |
|---|---|
| 尿毒症性物質 | 筋タンパク質の分解が進む |
| 代謝性アシドーシス | 筋肉が作られにくくなる |
| 慢性炎症 | 筋肉の修復・栄養供給が低下する |
これらが重なることで、CKDでは筋肉量と筋力の両方が低下しやすくなることが知られています。

尿毒症性物質
腎臓は体内で作られた老廃物を尿として排泄しています。 腎機能が低下すると尿毒症性物質が体内に蓄積し、筋肉を分解する経路が活性化されます。 その結果、筋肉が減りやすくなります。
代謝性アシドーシス
腎臓は酸を体外へ排泄する役割も担っています。 腎機能が低下すると体が酸性に傾き、筋肉を作る働きが弱まり、反対に筋タンパク質の分解が促進されます。
慢性炎症
CKDでは体内で慢性的な炎症が続くことがあります。 炎症は筋肉への栄養供給を妨げるだけでなく、筋肉を壊す反応も促進し、筋力低下を加速させます。
CKDでは「筋肉が減る原因」が一つではなく、複数同時に存在することが問題です。
筋肉が減ると何が起こる?
筋肉が減ることは、「歩きにくくなる」だけではありません。 CKDでは筋肉量や身体機能の低下が、将来の健康や寿命にも関係することが報告されています。
| 筋肉が減ると… | 生活への影響 |
|---|---|
| 歩く力が低下する | 買い物や外出が大変になる |
| 立ち上がりが難しくなる | 転倒・骨折のリスクが高まる |
| 身体機能が低下する | 要介護となる可能性が高まる |
| 心肺機能が低下する | 心血管疾患・死亡リスクが上昇する |
つまり、筋肉は「歩くための筋肉」ではなく、将来の自立や寿命を支える臓器ともいえる存在です。

筋肉が減ることで起こりやすいこと
- 疲れやすくなる
- 歩く速度が遅くなる
- 転倒・骨折しやすくなる
- 要介護リスクが高まる
- 心血管疾患や死亡リスクが高まる
だからこそ、CKDでは腎臓だけでなく筋肉を守ることが重要になります。 では、腎臓病では本当に運動してもよいのでしょうか。
「腎臓病だから運動しない方が良い」は昔の考え方
「腎臓が悪いなら安静にしてください。」 以前はこのような指導を受けた方も少なくありません。 しかし現在では、適切な運動は慢性腎臓病(CKD)の重要な治療の一つと考えられています。
結論
現在のガイドラインでは、無理な運動は避けるべきですが、「運動しないこと」の方が大きなリスクと考えられています。

昔は「安静」が勧められていた理由
以前は、腎臓病に対する有効な治療薬が少なく、運動に関する臨床研究も十分ではありませんでした。
- 運動すると尿蛋白が増えるのではないか
- 腎臓へ負担がかかるのではないか
- 腎機能が悪化するのではないか
このような懸念から、「できるだけ安静に」という指導が一般的だった時代があります。
現在は適切な運動療法が推奨されている
近年、多くの研究によって適切な運動は安全であり、身体機能や生活の質を改善し、腎機能低下を抑える可能性が示されてきました。
| 昔の考え方 | 現在の考え方 |
|---|---|
| できるだけ安静 | 適切な運動を継続する |
| 腎臓を休ませる | 筋肉・心肺機能も守る |
| 運動は危険 | 無理な運動だけ避ける |
現在のCKD診療では、「腎臓だけを見る」のではなく、筋肉や身体機能まで含めて守ることが重要視されています。
本当に危険なのは「運動しないこと」
もちろん、体調が悪い日に無理をしたり、いきなり高強度の運動を始めたりすることはおすすめできません。 しかし、必要以上に身体を動かさない生活を続けると、次のような悪循環に陥ります。
運動しない
↓
筋肉が減る
↓
疲れやすくなる
↓
外出・運動が減る
↓
さらに筋肉が減る
この「不活動の悪循環」こそ、慢性腎臓病で避けたい状態です。
無理な運動は避けるべきですが、「動かないこと」はそれ以上に健康へ悪影響を及ぼします。
そのため現在は、「Start low, Go slow(低い負荷からゆっくり始める)」という考え方が推奨されています。 まずは無理のない運動から始め、少しずつ継続していくことが大切です。
では実際に、筋トレにはどのような効果があるのでしょうか。
筋トレは腎臓を守る「薬」になる
筋トレ(レジスタンストレーニング)は、単に筋肉を大きくするためだけの運動ではありません。 近年では、慢性腎臓病(CKD)の患者さんにおいても、安全に実施でき、多くの健康効果が期待できることが報告されています。もちろん薬の代わりになるという意味ではありません。しかし、適切な運動療法は薬物療法や食事療法と並ぶ重要な治療の柱として位置づけられています。
筋トレで期待できる主な効果
- 筋肉量・筋力を維持する
- 身体機能を改善する
- 慢性炎症を抑える
- 腎機能低下を抑える可能性がある
- 生活の質(QOL)を改善する
| 効果 | 期待できること |
|---|---|
| 筋肉量維持 | サルコペニア・フレイル予防 |
| 身体機能改善 | 歩行・立ち上がり・階段が楽になる |
| 炎症抑制 | 炎症マーカーの改善 |
| 腎保護作用 | 腎機能低下や尿蛋白改善の可能性 |
| QOL向上 | 疲れにくく活動量が増える |
適切な負荷のレジスタンストレーニングを行うことは上記のような様々な効果があります。その他にも全身にさまざまな良い影響があり、詳しくはこちらの“貯金とは:筋肉がもたらす身体への作用”で解説しています。
筋肉量を維持する
レジスタンストレーニングは筋線維を刺激し、筋肉量や筋力を維持・増加させます。 また、エネルギー産生を担うミトコンドリアの働きを改善することも報告されています。
身体機能を守る
歩行速度や椅子からの立ち上がりなど、日常生活に必要な能力は筋トレによって改善します。 これにより転倒や要介護となるリスク低下も期待できます。
炎症を抑える
適度な運動を継続すると、慢性的な炎症を示す炎症マーカーが改善することが報告されています。 慢性炎症はCKD進行や筋肉減少にも関与するため、大きなメリットと考えられます。
腎機能低下を抑える
近年の研究では、運動療法によって腎機能低下速度が緩やかになったり、尿蛋白が改善したりする可能性が報告されています。 つまり筋トレは「筋肉だけ」の治療ではなく、腎臓を守る治療の一つでもあるのです。
筋トレは筋肉を鍛えるだけではなく、将来の腎臓・心臓・生活機能まで守る可能性があります。
では、筋肉が大事だからこそ注意してほしい血液検査の落とし穴があります。
血液検査だけではわからない「筋肉」の落とし穴
「クレアチニンが正常だから安心」 「eGFRが60以上あるから大丈夫」 実は、これだけでは本当の腎機能を判断できないことがあります。
その理由は、クレアチニンが筋肉から作られる老廃物だからです。
ここが重要
筋肉量が少ない人では、クレアチニンが低くなるため、実際より腎機能が良く見えてしまうことがあります。
| 検査 | 筋肉の影響 | 特徴 |
|---|---|---|
| クレアチニン | 受ける | 筋肉が少ないと低く出る |
| eGFRcr | 受ける | 実際より良く見えることがある |
| シスタチンC | ほぼ受けない | 真の腎機能に近い |
クレアチニンは筋肉から作られる
クレアチニンは筋肉の代謝で毎日作られる老廃物です。 そのため、筋肉量が多い人では高く、少ない人では低くなるという特徴があります。
筋肉が減ると腎機能が良く見えてしまう
高齢者やサルコペニアの方では、筋肉量が減ることでクレアチニン値も低下します。 その結果、eGFRが実際より高く計算され、腎機能を過大評価してしまうことがあります。
シスタチンCを使う理由
シスタチンCは筋肉量や食事の影響をほとんど受けません。 筋肉量が極端に少ない方や多い方では、クレアチニンだけでなくシスタチンCを組み合わせて評価することで、より正確な腎機能を把握できます。
血液検査の数字だけを見るのではなく、「筋肉量も含めて評価する」ことがCKD診療では重要です。
不安がある場合は、かかりつけ医へシスタチンCによる評価が必要か相談してみましょう。
今日から始める「貯筋」
「筋トレを始めなければ」と考えるとハードルが高く感じます。しかし大切なのは少しずつ継続することです。
腎臓病の運動療法では、Start low, Go slow(少しずつ始めて徐々に増やす)が基本となります。
| まず始めること | 目安 | ポイント |
|---|---|---|
| 早歩き | 20〜30分 | 息が少し弾む程度 |
| 椅子スクワット | 5〜10回 ×1〜2セット | 毎日でもOK |
| 慣れたら自重スクワット | 8〜12回 ×2〜3セット | RPE7前後 |
| 筋トレ | 週2〜3回 | 全身をまんべんなく鍛える |
まずはこの3つだけで十分です
- □ エレベーターより階段を選ぶ
- □ 買い物や通勤を少し早歩きにする
- □ テレビCM中に椅子スクワット5回
この程度でも「動かない生活」から抜け出す第一歩になります。

スクワットをおすすめする理由や、安全なフォーム・負荷設定については、こちらの記事で詳しく解説しています。
よくある質問
腎臓病でも筋トレして大丈夫?
基本的には大丈夫です。
現在のCKD診療ガイドラインでは、適切な負荷で行うレジスタンストレーニングは安全であり、身体機能や生活の質の改善が期待できるとされています。
ポイント
- 無理をしない
- 徐々に負荷を上げる
- 症状がある日は休む
ウォーキングだけでも十分ですか?
ウォーキングは非常に良い運動です。
ただし筋肉量そのものを維持・増やす効果は限定的であるため、スクワットなどの筋トレを組み合わせることでより大きな効果が期待できます。
| 運動 | 得意なこと |
|---|---|
| ウォーキング | 心肺機能・血圧・体力改善 |
| 筋トレ | 筋肉量・転倒予防・身体機能維持 |
筋トレをすると腎機能は悪くなりませんか?
通常の筋トレで腎臓が悪くなることは基本的にありません。
運動直後はクレアチニンや尿蛋白が一時的に変化することがありますが、長期的には腎機能低下の抑制や身体機能の改善が期待されています。
運動を控えた方が良い時はありますか?
次のような場合は運動を中止し、医療機関へ相談してください。
- 胸の痛み
- 強い息切れ
- 動悸が続く
- 発熱
- 急激なむくみ・体重増加
- めまい・失神
詳しい判断基準はこちらの記事をご覧ください。
▶︎ 運動を避けるべき基準
プロテインは飲んでも大丈夫?
一律に「飲んではいけない」ということはありません。
ただしCKDの進行度や食事内容によって適切なたんぱく質量は異なります。自己判断で大量に摂取するのではなく、主治医や管理栄養士と相談しながら調整しましょう。
まとめ
慢性腎臓病(CKD)では、腎臓だけでなく筋肉も少しずつ失われやすい状態になります。
筋肉が減ると、歩く・立つ・階段を上るといった日常生活が難しくなるだけでなく、転倒・骨折・心血管疾患・死亡リスクの上昇にもつながることが分かっています。
一方で、適切な運動習慣、とくにレジスタンストレーニング(筋トレ)は、筋肉量や身体機能を維持し、炎症を抑え、腎機能低下を遅らせる可能性が示されています。
CKDで本当に怖いのは「腎臓が悪くなること」だけではありません。
筋肉が減り、自立した生活を失ってしまうことです。
今日からできる3つのこと
- 通勤・買い物では少し速歩きを意識する
- 椅子スクワットを5〜10回から始める
- 週2〜3回の筋トレを目標に少しずつ習慣化する
運動は「Start low, Go slow(少ない負荷からゆっくり始める)」が基本です。焦って頑張る必要はありません。継続することが何より重要です。
初心者向け|運動強度(RPE)の決め方を見るもっと体系的に学びたい方へ
この記事では、「なぜCKDで筋肉が重要なのか」を中心に解説しました。
実際には、
- どの程度の運動なら安全なのか
- 腎臓病でも筋トレしてよい人・注意が必要な人
- プロテイン・タンパク質はどう考えるべきか
- 週2〜3回で効果的な筋トレプログラム
- 透析を遠ざける生活習慣の考え方
これらを組み合わせることで、「数十年後も自分の脚で歩くための貯筋」が完成します。
現在、『健診で「腎臓が悪い」と言われた人のための貯筋の本』を執筆中です。
発売後はこの記事からもご案内します。
あわせて読みたい
参考文献
- Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) CKD Work Group. KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease. Kidney Int. 2024.
- Kohzuki M. Renal Rehabilitation: Present and Future Perspectives. J Clin Med. 2024.
- Ma Q, et al. The effect of regular aerobic exercise on renal function in patients with CKD: A systematic review and meta-analysis. Front Physiol. 2022.
- Hallan SI, et al. Long-Term Physical Exercise for Preventing CKD in Older Adults: A Randomized Clinical Trial. JASN. 2025.
- Johansen KL, et al. Exercise in Individuals with CKD. Am J Kidney Dis. 2012.

コメント