「健康のために運動をしましょう」とよく言われます。 しかし実は、運動は“やればやるほど良い”わけではないことが、近年の研究からはっきりしてきています。
とくに、腎臓・心臓・血管といった内臓の負担や、死亡率との関係を見ていくと、 運動には「少なすぎてもダメ」「多すぎてもダメ」という“最適量”があることが分かります。
1. 運動には「最適量」がある|U字型・J字型カーブの話
多くのガイドラインでは「週150分程度の運動」が推奨されていますが、 上限についてはあまり語られません。
しかし複数の疫学研究をみると、運動と健康効果の関係は次のようなカーブを描きます:

このような「運動量とリスクのU字型・J字型の関係」は、心血管疾患や死亡率など、さまざまなアウトカムで繰り返し確認されています。
一方で、腎臓に関しては少し事情が異なります。近年の研究では、高強度インターバルトレーニング(HIIT)のような比較的強度の高い運動のほうが、腎機能低下のスピードをむしろ緩やかにする可能性がある、という報告も出てきています(詳しくはこちらの記事で解説しています)。
ただし、これは「強ければ強いほど良い」という意味ではありません。
実際の臨床では、過度な運動が、横紋筋融解症や脱水、体質的要因などをきっかけに、急性腎障害(ときに透析を必要とする状態)を引き起こすケースも少なからず経験します。
つまり腎臓に関しては、
「適度な運動はむしろプラスに働く可能性がある」一方で、
「やりすぎは、慢性的な悪化ではなく“急性のトラブル”として表面化する」
という、少し違った形のリスク構造を持っている臓器だと言えます。
この「腎臓に特有の、やりすぎリスク」については、記事の後半で詳しく解説します。
2. 腎臓と運動|筋トレは基本的にプラスだが…
腎臓の健康という観点では、適度な運動、特に筋力トレーニング(筋トレ)は多くのメリットがあります:
- 糖尿病の発症リスクを下げる
- サルコペニア(筋肉減少)を防ぐ
- 結果的に腎機能悪化のリスクも下げる
ただし研究をまとめると、週30〜60分程度の筋トレが最も効率が良く、それ以上増やしてもメリットがほとんど上乗せされない傾向が示されています。
3. 心血管系とやりすぎのリスク
運動の「やりすぎ」の悪影響が最もはっきり出やすいのが、心血管系です。
長年にわたる極端に高い負荷(例:超長距離・高頻度レース)は、
- 心臓の拡大・リモデリング
- 心筋線維化
- 不整脈リスクの上昇
といった変化を誘発することが報告されています。特に高負荷を長時間続ける場合、健康効果は頭打ち・横ばいになる可能性が高いです。
4. 寿命との関係|一番長生きなのは「ゆるくやっている層」
「ジョギング量と死亡率」の大規模調査では、最も死亡率が低かったのは、
- 週1〜2.4時間
- 週2〜3回
- ゆっくり〜平均ペース
という比較的ゆるめの運動群でした。 反対に、週4時間以上の激しいランニング群は、「全く運動しない人」とほぼ同等の死亡率という結果も報告されています。
5. 運動後急性腎障害(AKI)とは|稀だが注意すべき実例
横紋筋融解症によるAKI
激しい運動で筋肉が壊れ、ミオグロビンが血中に溢れ出すと、腎臓での処理負荷が急増。これが尿細管障害を起こし、急性腎障害(AKI)になることがあります。時には透析を要する場合もあります。
腎性低尿酸血症に合併するAKI(ALPE)
遺伝的な尿酸輸送異常を有する人では、強度の高い短時間運動後に腎機能が急に低下するケースも報告されています。頻度は低いものの、腎臓にとって意味がある実例です。検診などで尿酸値が低いと言われている人は、特に注意が必要です。
6. 実践的な運動プラン|「やりすぎない」組み立て
科学的根拠と臨床の現場から導かれる「妥当な目安」は以下の通りです:
- 有酸素運動:週150分前後・中強度
- 筋トレ:週30〜60分・軽負荷中心
- 高強度:週1〜2回まで・体調と相談・人を選ぶので主治医に相談を
「がむしゃらにやる」よりも、「継続しやすい強度」を選ぶのが、実際の健康結果につながります。
▶ 腎臓に配慮しながら運動を始めたい方へ
ここで紹介した考え方を、実際に「どういう運動を、どの強度で、どう組み立てればいいのか」という形に落とし込んだ実践ガイドを、以下の記事で詳しく解説しています。
腎臓に配慮した運動の基本原則|CKDでも安全にできる運動の考え方
7. よくある質問(FAQ)
Q. 毎日ランニングしたほうがいいですか?
必ずしもそうではありません。身体にとって回復時間も必要です。持病がある場合は無理に毎日やるより、週数回の安定したペースが理想です。
Q. 心拍数はどれくらいが目安ですか?
中強度は「会話はできるが歌うのは難しい」程度が目安です(Borgスケール 11〜14)。
Q. 筋トレはどれくらいやればいい?
週30〜60分程度で、関節痛や疲労が残らない負荷設計が基本です。 無理に重い負荷を求める必要はありません。
まとめ
運動は確かに健康に良いですが、「やればやるほど良い」とは限りません。 適度な強度と頻度を守り、「続けられる運動」を選ぶことが、長期的な健康・腎臓機能・寿命につながります。
運動の「考え方」だけでなく、 ・どんな運動が安全か ・筋トレや有酸素はどう組み合わせるか ・ジムや自宅でどう始めるか こうした内容は、以下のページにまとめています
・腎臓×運動に関する記事のまとめは ➡️「【専門医監修】腎臓を守る運動ガイド|安全に始める筋トレと生活習慣 」
参考文献
- Schnohr P, et al. Dose of Jogging and Long-Term Mortality. J Am Coll Cardiol. 2015.
- Momma H, et al. Muscle-strengthening activities and risk of non-communicable diseases. Br J Sports Med. 2022.
- 石川 勲. 運動後の急性腎障害. 日本内科学会雑誌 103(5):1101–1107.


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