私たちは人生の約3分の1を睡眠に費やしています。近年、この「睡眠の時間」と「質」が、慢性腎臓病(CKD)の発症や進行、さらには心血管疾患や死亡リスクにまで深く関与している可能性が、数多くの研究で明らかになってきました。
本記事では、最新の医学エビデンスをもとに、腎臓を守るために意識すべき睡眠習慣について、腎臓専門医の視点から解説します。
本記事の概要
下のグラフのように睡眠時間が7時間や7.5時間と比較するとそれより短くても長くても、CKDや全死亡のリスクと関連しているという研究があるのです。

その他にも様々な研究がなされており、要点を以下にまとめました。
睡眠と腎機能の意外な関係
腎臓は体内の老廃物を濾過し、水分や電解質のバランスを調整する重要な臓器です。しかし、睡眠不足や睡眠の質の低下は、こうした腎臓の働きを直接的に損なう可能性があります。
短時間睡眠・長時間睡眠はいずれもCKDリスクを高める
複数の研究を統合したメタアナリシスでは、7〜8時間の睡眠を基準とした場合、4〜6時間以下の短時間睡眠、または8〜9時間以上の長時間睡眠のいずれもが、CKD発症リスクの上昇と関連していました。
「睡眠の質」が腎臓を左右する
中国の中高年を対象とした前向き研究では、週に3〜7日「ぐっすり眠れない」と感じている人は、そうでない人と比べてCKDを発症するリスクが約1.9倍に上昇していました。
週末の「寝だめ」は腎機能低下のサイン?
平日の睡眠不足を週末に補う、いわゆるソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ぼけ)も注意が必要です。週末の睡眠時間が9時間を超える人では、平日の睡眠時間に関係なくeGFR低下傾向が認められています。
心血管イベントと睡眠時間の「U字型」関係
腎臓病と心血管疾患(心筋梗塞・脳卒中)は密接に関連しています。睡眠時間と心血管リスクの関係は、しばしばU字型曲線で示されます。
最もリスクが低いのは「7時間睡眠」
心血管疾患および脳卒中リスクが最も低いのは、1日約7時間の睡眠をとっている層でした。
わずか1時間の差がリスクを分ける
7時間を基準とすると、睡眠時間が1時間短くなるごとに心血管イベントのリスクは上昇し、逆に1時間長くなってもリスクが増加することが示されています。
睡眠不足は交感神経の過剰な活性化や血圧上昇を招き、長時間睡眠は体内時計の乱れや慢性炎症を反映している可能性があります。
睡眠習慣は「寿命」にも直結する
睡眠時間は、あらゆる原因による死亡(全死亡)の重要な予測因子です。
短すぎても、長すぎても死亡リスクは上昇
130万人以上を対象とした大規模解析では、短時間睡眠者で死亡リスクが上昇し、特に長時間睡眠者では30%以上のリスク増加が報告されています。
長時間睡眠は「体からのSOS」かもしれない
9時間以上の睡眠は、単なる生活習慣ではなく、未診断の疾患や睡眠の断片化による質の低下を反映している可能性も指摘されています。
免疫力と睡眠|ワクチン・感染症との関係
腎臓病患者では免疫機能が低下しやすいことが知られていますが、睡眠は免疫応答にも大きな影響を及ぼします。
睡眠不足はワクチン効果を弱める
睡眠不足の状態でワクチンを接種すると、十分な睡眠を確保した場合と比べて抗体産生が低下することが報告されています。
不眠と感染症リスク
不眠症や慢性的な睡眠不足を抱える人では、COVID-19のブレイクスルー感染リスクが高いことも示されています。
なぜ睡眠の乱れは腎臓に悪いのか?
睡眠障害が腎機能を低下させる背景には、以下のような生理学的メカニズムがあります。
交感神経の過活動
睡眠不足は体を常に「緊張状態」に置き、血圧上昇を通じて腎臓の細小血管に負担をかけます。
ホルモンバランスの乱れ
レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の異常活性化により、腎臓の線維化が進行しやすくなります。
慢性炎症の持続
睡眠不足はCRPなどの炎症マーカーを上昇させ、腎機能低下を加速させる要因となります。
まとめ|腎臓を守るための「睡眠処方箋」
- 睡眠時間は7時間前後を目標に
- 週末の寝だめを避け、起床時間を一定に
- 不眠を放置せず、必要に応じて医療機関へ相談
腎臓は一度機能が低下すると、回復が難しい臓器です。
今日からの質の良い睡眠習慣が、将来の腎機能と生活の質を守ります。
※残念ながらほとんどの研究が観察研究であり、因果関係を示したものではありません。とはいえ、統計学的に有意な結果が出ていることは間違いないので、適切な睡眠を取れるよう意識しましょう。
参考文献
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