はじめに:コーヒーと腎臓の関係は「意外と深い」?
朝の一杯が欠かせない方、仕事や育児の合間にコーヒーが心の支えになっている方は多いと思います。腎臓専門医として日々の診療に携わる中で、「コーヒーは腎臓に悪いのでは?」という相談を受ける機会は今も少なくありません。
ところが近年、研究が進むにつれて「コーヒーは腎臓にとって必ずしも悪者ではない」という見方が広まりつつあります。特に2023年に改訂された日本腎臓学会のガイドラインでは、コーヒーの摂取がCKD(慢性腎臓病)の進行抑制に寄与する可能性が示されています。
この記事では、私自身のコーヒー習慣(1日1杯ほど)も交えつつ、Dr.Crescentの人生実験室として、腎臓とコーヒーの関係をわかりやすく解説します。コーヒー好きの方、健康管理を頑張っている方に役立つ内容をまとめました。
2023年CKDガイドラインが示した「新しい視点」
日本腎臓学会の「CKD診療ガイドライン(2023)」では、次のように言及されています。
「コーヒー摂取はCKDの進展抑制を期待できる。」
この記載は「飲めば腎臓が良くなる」という意味ではありません。しかし、従来の “腎臓に悪いというイメージ” は見直す必要がありそうだ、とガイドラインは示唆しています。
とはいえ、根拠はまだ観察研究が中心。医学的に「確実に良い」と言える段階ではありませんが、悪い影響が強いという証拠も現時点で見つかっていません。
研究から読み取れる「コーヒーと腎臓」のポイント
コーヒー摂取と腎臓の健康に関する研究は数多くありますが、特徴を4つに整理すると理解しやすくなります。
① 観察研究:コーヒー摂取者は死亡リスクが低い傾向
約5000人を対象にした研究では、コーヒーを多く飲む人ほど死亡リスクが約25%低い傾向が報告されています(Vieira et al., 2019)。
ただし、コーヒーを日常的に飲む人は「活動量が多い」など、健康的な生活習慣を持つ場合が多く、これらが結果に影響している可能性もあります。一方で「喫煙量が多い人」はコーヒー摂取量が多いことも考えられるため結果の解釈は難しいです。
② メタ解析:1〜2杯以上で腎臓の悪化を防ぐ方向に働く可能性
複数研究を統合したメタ解析では、1日2杯以上の摂取でCKD発症リスクが低下する傾向が示されています。また4杯以上飲む群では死亡リスク減少の可能性も報告されています(Kanbay et al., 2021)。
③ 遺伝子研究では「直接作用」は示しきれず
カフェイン代謝に関連する遺伝子を利用した研究(メンデルランダム化研究)では、コーヒー摂取と腎臓病リスクの間に明確な因果関係は確認されませんでした(Nordestgaard et al., 2016)。
つまり、「コーヒーが腎臓を保護している」というより、「コーヒーを飲む人の生活全体が健康的」である可能性も否定できません。
④ 医師としてのまとめ
- 現時点では “悪影響よりメリットが目立つ” 印象
- ただし「コーヒー=治療」ではない
- 生活習慣全体を改善する一環として位置づけるのが現実的
水分補給・カリウム・カフェイン:腎臓病患者が知っておくべき点
● コーヒーは水分補給になる?
カフェインの利尿作用は確かにありますが、日常量(1〜2杯程度)では水分出納に大きな影響を与えません。むしろ摂取した水分の多くは体内に残るため、軽度の水分補給になり得ます。
● カリウム量は意外と多い
インスタントコーヒーや缶コーヒーには100〜200mg程度のカリウムが含まれます。腎機能が低下している方は、主治医とカリウム値を定期的に確認するのが安全です。
● 夏場は特に注意
汗の量が増えて脱水しやすいため、コーヒーだけに頼らず水や麦茶などで1.5L前後の水分を確保しましょう。
● 個人差が大きいので「適量」が大事
私はカフェインに敏感な体質なので1日1杯程度を上限にしています。睡眠に影響が出る方は午後の摂取を避けた方がよいでしょう。
結論:無理なく楽しみつつ、腎臓にも配慮する
コーヒーは「腎臓に悪い」という従来のイメージとは異なり、適量であれば健康にプラスに働く可能性が研究から示唆されています。ただし、因果関係が確立しているわけではないため、過度に期待する必要はありません。
- ガイドラインは「有望」と評価している
- 研究の限界(観察研究中心)も理解しておく
- 水分とカリウム管理は別途しっかり
- 体質に合わせて1〜2杯/日の範囲で楽しむのが現実的
Dr.Crescentの実験メモ:
午前中の1杯だけにすることで、睡眠への影響を避けつつ集中力の向上を実感。腎臓への悪影響も特に認めず。引き続き経過観察中。
次回は、コーヒーと心臓・癌の健康について、最新のエビデンスをまとめます。
・腎臓×食事に関する記事のまとめは ➡️「【専門医監修】腎臓を守る食事ガイド|専門医が整理する基本と実践」


コメント