【論文紹介】しんどい運動ほど腎臓を守る!?

【論文紹介】しんどい運動ほど腎臓を守る!? 健康×筋トレ

【論文紹介】しんどい運動ほど腎臓を守る!?

健診で「腎臓の数値が少し悪い」と言われる方が近年増えています。慢性腎臓病(CKD)は、糖尿病や高血圧と並ぶ世界的な公衆衛生上の課題であり、有病率や治療費、罹患率、死亡率の高さから注目されています。一度腎臓の機能が低下すると改善は難しく、進行を遅らせることが治療の鍵となります。

そんな中、2025年7月発行の Journal of the American Society of Nephrology (JASN) に掲載された論文は、「身体活動が腎臓の機能低下を抑制するか」をテーマとしています。

研究の概要

この研究はノルウェー・トロンハイムで2012〜2018年に行われた5年間のオープンラベル無作為化並行群間臨床試験「Generation 100 Study」の事後解析です。対象は70〜77歳の地域住民1156名で、認知症や重度の管理不能心血管疾患、運動不能者は除外されました。

参加者は以下の3グループにランダムに割り当てられました:

  • 対照群(n=385):国の身体活動推奨事項に関する情報提供(週5日・各30分の中強度~高強度運動)
  • 中強度運動群(MICT)(n=380):週2回、心拍数ピークの約70%で50分間の監視下運動
  • 高強度運動群(HIIT)(n=391):週2回、心拍数ピーク約90%で4分間インターバル×4回の監視下運動

主要評価項目はシスタチンCベースのeGFR(推算糸球体濾過量)の急速低下(年間5 mL/分/1.73 m²超)でした。シスタチンCベースのeGFRは筋肉量変動の影響が少なく、高齢者での腎機能評価に適しています。

結果

急速なeGFR低下を経験した割合は以下の通りです:

  • 対照群:30%(117/385)
  • 中強度運動群:28%(108/380)
  • 高強度運動群:23%(92/391)

高強度運動群では対照群と比べ、急速なeGFR低下のリスクが有意に25%減少しました(RR 0.75; 95% CI 0.59-0.95)。中強度運動群では統計的に有意な差はありませんでした(RR 0.93; 95% CI 0.75-1.16)。運動強度と腎機能低下リスクには用量反応関係も認められました(傾向P=0.02)。

二次評価項目(eGFR30%以上低下)でも、高強度運動群はリスク低減が確認されました(RR 0.73; 95% CI 0.57-0.94)。

週20分以上の中〜高強度身体活動を増やした参加者は、安定した活動レベルの参加者と比べ、急速なeGFR低下のリスクが27%減少(RR 0.73; 95% CI 0.53-0.99)。逆に活動量を週20分以上減らした場合は30%リスク増(RR 1.30; 95% CI 0.93-1.83)でした。

考察

腎臓病の患者やリスク者に「安静が良い」と思われがちですが、この研究では定期的に高強度運動を行う方が、高齢者の腎機能低下を防ぐ可能性が示されました。対象は70代の高齢者で、糖尿病や重度の心疾患は除外されている点に注意が必要です。

運動による腎保護メカニズムは完全には解明されていませんが、体重減少、心血管フィットネス改善、炎症軽減、RA系抑制、毛細血管維持、ミトコンドリア機能改善、内皮機能改善などが関与する可能性があります。

まとめ

  • CKDは進行しやすく世界的に増加する公衆衛生上の課題である
  • 週2回の高強度インターバルトレーニング(HIIT)を5年間行うと、高齢者の腎機能低下リスクは25%低下
  • 中強度運動では統計的に有意なリスク低減は確認されなかったが、用量反応関係は認められた
  • 運動療法の重要性を示すエビデンスとして、高齢者に身体活動を普及させる意義がある
  • 今回の知見は、青年〜中年層にも参考になる可能性がある

本研究は無作為化比較試験(RCT)であり、長期追跡、多数の参加者、高精度な腎機能評価により、今後の運動指導で「強度」を意識した具体的なアドバイスが可能になることを示しています。
筆者は一般内科診療を行う際にもレジスタンストレーニングを薦めていますが、本研究のように監視下で行うことが可能になるとより高負荷でのトレーニングを薦めやすくなると考えています。

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